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大阪高等裁判所 昭和48年(く)6号 決定

少年 S・M(昭三〇・二・二四生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年作成の抗告申立書に記載のとおりであつて、要するに、中等少年院送致の原決定の処分は著しく不当であるというのである。

そこで、本件少年保護事件記録及び少年調査記録を検討するに、本件は、原決定が認定する如く、昭和四五年頃から高校生であるにもかかわらず、飲酒、喫煙を覚え、競輪競馬に関心を持ち始め、同四七年からは殆んど連日の如く多量に飲酒するようになり、また競輪競馬にも熱中し、その費用を得るため、しばしば母に金員を強要し、これに応じなければ、母に殴る蹴る、あるいはひもで手足を縛つたり、パイプレンチで指を挾んだり、果ては裸にして縛り上げる等の暴行を加えたうえ、母よりむりやりに多額の金員(一ヶ月平均七万円位)を取り上げ、これを飲酒、競輪、競馬等に費消し、保護者の正当な監督に服さず、または自己の徳性を害する行為をする性癖があり、その性格、環境に照らして、将来罪を犯すおそれがあるという事案であり、少年は、昭和四七年八月四日原裁判所で右の虞犯事件につき審判の結果、試験観察補導委託の決定を受け、○住○生方に委託されたが、同月一七日夜、正当な理由がないのに無断で同所を逃走し、諸所を転々として同月二〇日未明自宅に帰り、母に金員を強要したが、母がもうすぐ警察官がくる時刻だと言つたところ直ちに家から出て行つた。しかし、その後も度々帰宅しては母に多額の金員を要求してはその都度その交付を受け、同年一二月五日の母のボーナス日に帰宅して母に金員を要求し、母がこれを拒むや、母に馬乗りになつて押え込み、ひもで身体を縛ろうとするなどの暴行を加えて一〇万円余をおどし取り、その後歩行中転倒してけがをしたため帰宅したが、帰宅中も度々母に金員を要求しては暴力を振つておどし取るなどし、いずれもその金員を遊興費等に費消しているのであつて、前記試験観察決定後、少年の行状は毫も改らず、前記虞犯事由である少年の行為は、母に対するもので他の第三者に対するものではないけれども、その母に対する行為は虞犯というよりはむしろ恐喝ないし強盗行為というべきものであり、しかも、少年は、小学五年生の頃非行のため教護施設に収容され、約二年三ヵ月余の収容生活から帰宅後も素行がおさまらず、昭和四四年八月に暴力行為等処罰に関する法律違反、恐喝未遂、同年九月にはスーパーにおける窃盗の非行を犯し、昭和四五年一月二八日右各事件につき審判の結果不処分となつた非行歴のあることが認められる。以上の事実に加えて自己中心的、利己的、自己抑制力に乏しい偏倚な性格、母一人子一人の家庭で母は教職にあるとはいえ、現状では少年に対する保護能力に欠けること、その他記録にあらわれた諸般の事情を考慮すると、少年の育つて来た環境には同情すべきものがあるけれども、少年はもはや在宅処遇により矯正教育することは不可能な状態にあるというべく、この際施設に収容して規律ある生活を送らせ、これまでの自己の非を反省させるとともにその自覚を保し、社会生活に適応できるよう指導教育する必要があると認められる。したがつて、少年を中等少年院に送致した原決定は相当であつて、これをもつて著しく不当であるとは考えられない。

よつて、本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 尾鼻輝次 裁判官 小河巖 上野国夫)

参考二 少年調査記録〈省略〉

参考三 昭四八・一・二二付少年S・Mの抗告申立書

抗告の趣旨

私の保護事件は、ぐはん事件です。そして、このたび少年審判で中等少年院送りの云渡を受けました。

それについて不服につき申し立てます。私の保護事件は、ぐはん事件です。そして一度中間決定になり、そしてじけん観察になりました。

そして私はそこの仕事先をにげました。でも私はなにも中間決定の間の事件をおかしていません。私は少年です。少年は、保護者間の元におり、そしてそこで生活をしなければいけないのにそれを考えず家庭で生活出きません。そして中間決定を受けて判事さんのいわれたことをやぶりました。でも私くしにもいろいろ理由はありました。でも、私は、そのことについて、よく反省しております。

それなのに中等少年院送りの決定は、あまりにもきびしすぎます。私は社会での刑事事件はなにもやつておりません。少年院へ送られていつた人のほとんどが窃盗、強盗、強姦とか、つみのおもい事件で少年院へ送られています。ほとんどぐはん事件で行つている人はいないのと同じにそうします。それに私は自分がぐはん事件のことについては、よく反省し本当にこれからそういつたことをせずよく反省し反省しつくしています。それなのに中等少年院送りはあまりにもきびしすぎます。いくら矯正教育といつても、一年三ヶ月あまりの自由のない生活は少年の刑務所と同じにすぎ、あまりにもきびしすぎます。私はいままでの自分に対して失なわれた正の心と正しい生活をする実行力を持つています。これだけ思い出し考え出し自分にいいきかせて話をわかつてもらえませんでした。それなのに中等少年院送りの決定はあまりにもきびしすぎ不服であります。私は自分の決定についてもう一度少年審判のやりなおしをして下さい。おねがい申し上げます。

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